家庭の影響は軽い
子どもの素行や性格を評して「親の顔が見たい」とか「育ちが悪い」とか言いますが、行動遺伝学によれば人間の性格に与える家庭の影響はほんのわずか、であるそうです。
ほとんどのひとはこれを家庭環境だと思うでしょうが、驚くべきことに、行動遺伝学によると性格形成に家庭(子育て)はほとんど影響を及ぼしていないようなのです。
凶悪事件などがあるたびに、メディアは犯行の理由の第一が、犯人の家庭環境にあるかのように犯人の生い立ちに因果関係を求めようと、犯人の育成環境の悪いところを執拗に報道します。
子をもつ親は、子どもの性格や将来に家庭環境がかなりの影響を及ぼすであろうと熱心に育成するわけですが、「行動遺伝学」に基づく双生児の調査からみると、その苦労は不毛であるようです。
子どのにもある「外づら」
よく親が、「自分の子どものことは、自分が一番よくわかっている」などと言いますが、それは子どもの一面しか見ていない可能性があります。
子どもには幼少期から、家庭での人格と、学校や保育園でみせる友だち関係での人格が、かなり違っていることは珍しくありません。
以前わたしの子どもが通園していた保育園の年長組に、かなりのいじめっ子の男の子がいました。その子はいつも子分を2人引き連れ、年下の小さな子にまで嫌がらせを繰り返し、少しでも反抗しようものなら暴力を振るうという悪の権化みたいな子どもでした。
わたしも見るに見かねて、強く叱ったことがありますが、まったく効果はありませんでした。
そして、運動会かなにかのイベントで、そのいじめっ子が父親と一緒にいるところを目撃したのですが、いつもの意地の悪い目つきはすっかり影をひそめ、子どもらしい愛くるしい笑顔になって父親にかわいらしく甘えていたんですね。
あのとき、父親にその子の保育園での素行を説明しても、絶対に信じようとはしなかったでしょう。
それくらい、人間はその場その場で行動だけでなく人格までも変えてしまうものなのです。佐々木俊尚さんの言うところの「レイヤー」によってキャラを使い分ける、ということです。
たしかに自分の子どもを見ていても、家庭では元気でやんちゃな性格でも、学校や保育園に行くと家庭よりかなりおとなしくなる傾向があります。
ベテラン保育士に聞いた話では、子どもには、家庭で元気だと外ではおとなしく、家庭でおとなしいと外では元気になる、という傾向があるそう
です。内と外で人格が一定しているほうが少数派だと。
どんな子どもでも、人間に社会性を持っているもので、まわりにいるメンバーによって自分のキャラを変えているものなんですよね。
みなさんも「自分のことは親が一番よく知っている」という人はあまりいませんよね?
それでも重要な家庭教育
そういう意味では、「明るい」とか「前向き」とか「嫌がらせ好き」いう生まれつきの傾向が強い性質は、家庭の環境はあまり影響しないのかもしれません。
橘さんの言うところの「神経症傾向や外向性、調和性、固執などの性格的特徴」こういう部分は、生まれつきの部分が大きいです。
しかし、「借りたものは返す」とか「行儀よくする」とか「弱いものいじめはしない」という、ルールとかマナーや倫理をどれくらいう守れるか、というのは個人の性格だけではなく、家庭での教育というか刷り込みが多少は影響するのではないでしょうか。
完璧に良い子にならないにしても、その行動が悪いとまったく感じていないのと、悪いことと知りつつやってしまうのでは、その度合いがまったく違ってくるでしょうし。
これらの「ルール順守」や「道徳心がある」というのは、性格と分離させてとらえる人はまずいないわけでして、ルール破り放題で人に嫌がらせばかりする性格の良い人間、というのはありえないでしょう。
なので「遺伝的な子どもの人格・個性」を尊重しつつも、しっかり躾はしするのがよいかと。